輸血が終わったと連絡が入ったのは、18時。
400ccの血が7時間かけて杏の体内に。
だけど、やっぱり自分の血液以上の量を体内に入れると言う事は
杏にかなりの負担をかける事になってしまった。
輸血後のPVC値は、33%。
400ccもの血を入れたから、先生は40%台を期待してたみたいだけど
全く届かなかった。
それに33%なんて数値だったら、もう普通の状態のはずなのに
処置室から出てきた杏は、普通どころか
重い鎧でも纏っている様な足取りだった。
それに、輸血中二度嘔吐。
家に帰ってからも、水でさえ吐いてしまう。
大好きな食パンも、首をそむける。
いつもは喜んで食べるサツマイモ、これも食べない。
うどんをほんの少しだけ食べたけど、やっぱりこれも吐いてしまった。
呼吸も大きく荒いかと思えば
お腹が動いてる?!と思うくらい静かで、かなり不安定。
夜、ドクッ、ドクッと言う音が聞こえるかと思うくらい
大きく心臓が打って、意識が朦朧とする。
「杏っ!」呼びかけに、目を開けようともしない。
このままお別れなのか!?
諦めたその時に、杏が戻って来た。
寝ている間に何があるかわからない。
そう思うと、久しぶりに眠れない夜になった。
翌日、朝一番のおしっこからいきなりまっ黄色。
そして、ウンチはまっ黒。
溶血がもう始まっている。
だけど、お腹はまだピンク。
黄疸は出ていないのが、なによりもの救い。
吐き気も治まり食欲も戻った。
だけど、寝る訳でもないのに一日横たわったまま。
ご飯とおしっこ以外は、動かない。
そして、この日も目をカッと見開いていたかと思うと
その数分後には呼びかけに反応しなくなる事を、何回か繰り返した。
昨日・今日。
一向に元気になる気配がない。
歩くのはおぼつかないし、もちろん散歩にだって行きたがらない。
そして、やっぱり一日中横たわっている。
呼吸も相変わらず不安定だ。
拒絶反応なら三・四日で落ち着くだろう。
だけどこんなに苦しそうな杏を見るのは辛い。
もう、こんな輸血はできない。
したくない。
私の右手の小指にあったピンキーリングを、杏にあげた。
あんちゃん、これで杏の叶えたい願いを願ってみ。
杏の今の願いは、杏にしかわからんから
杏が思う事を願ったら良い。
母さんのいくつものお願いを叶えてきてくれたリングやから
きっと叶うよ。
夜ご飯にご馳走が出てきますように、なんてどう?PR